ジャコウウシ Musk ox

主な生息地カナダ極北、ツンドラ地域周辺
体長・体重120cm〜200cm、180kg〜280kg
毛の色ベージュ、シロ、茶褐色
好物草の根
特徴分厚い毛皮

 カナダに最も古くから住み着いている哺乳動物と言われているジャコウウシは、約9万年前にシベリア半島から移動してきたと考えられている。当時、ユーラシア大陸と北米大陸に挟まれたベーリング海峡は氷河期の海面低下の影響で地続きだった。地球の寒冷化によって氷が溶けず、川となって海に流れ込む水の量が減少したためだ。せっかく渡って来た北米大陸だったが、当時はほとんどが厚い氷河に覆われており、かろうじて氷のない台地で餌を見つけ暮らしていた。この頃の厳しい生活環境に適応して行ったため、現在も氷点下 40 ℃にもなるカナダの極北地区で暮らしていけるのだ。
 野生のジャコウウシの多くはカナダの極北地区、北極海に点在する島々に住み着いており、その数はカナダだけで8万5千〜9万頭と言われている。古くから、極北で暮らす人々や、捕鯨のために極北を訪れる者の食料や衣類として数多く殺されてきた歴史を持ち、 1900年初頭には絶滅の危機に瀕している。カナダ政府は 1917 年にジャコウウシを絶滅から救うために法律で保護を定め、現在の数まで回復してきていることからも、いかにこの動物が人間に対して非力であるかがうかがえる。
 カモシカの仲間であるジャコウウシは黒褐色で長い体毛を持つ。 2 重になったその体毛は皮膚に面したウール状のものと、その上に生えている長い毛からなっている。皮膚に面したウール状のものは羊のものと比べ丈夫で8倍暖かく、カシミアよりも上質と言われている。
 盛り上がった背中と曲線を描いた独特の角が特徴的だ。大人のオスで体長180cm〜245cm、背までの高さ110cm〜140cm、重230kg〜400kgとカモシカの仲間では最大の大きさを誇り、メスはオスより体格は小さいが、立派な角を持っている。

ジャコウウシ 生息マップ

 定着性で遠くへの移動はせず、夏の間は10〜15頭前後の小さな群れで、植物が生えやすい川や湖、海のそばの水辺で暮らしている。低木の柳の葉を好んで食べるが、それは極北地域に多い蚊や虻から目を守るために、低木の中に顔を入れているという理由もあるようだ。冬の間は大きな群れをなし、雪が少なく餌の植物が掘り出しやすい山の斜面などで暮らしており、雪が硬く掘り出せないような時は自分の頭を振り下ろし、砕いている様子も見受けられる。冬の間、昼間でも陽の光が差さない極北の地では、その優れた嗅覚が餌を探すのに最も重要となっている。
 年間を通してオス同士は覇権争いを演じ、強いオスはボスとなり沢山のメスと子供を率いた群れを作る。その争いはぶ厚い頭蓋骨と丈夫な角を持つジャコウウシならではの迫力だ。全速力で突進し角をぶつけ合い、力が拮抗したオス同士はこのぶつけ合いを何回も繰り返す。その音はまるで、極北のツンドラの大地に杭を打っているかのようだ。
 目の下や蹄から出る分泌液で縄張りを決めており、メスが交尾期に目の下から出す分泌液はじゃこうのにおいがする。この動物の名前の由来である。また英語名でもMUSKOXといい、MUSK(ムスク)という香料は日本でもおなじみだ。
 この巨大な動物の天敵はオオカミだ。オオカミたちはまだ小さい子供を狙い攻撃を仕掛ける。そのとき親を含めた大人たちの群れが一丸となって子供を守る。角を相手に向け、まるで円陣を組むかのように円になりその中央に子供を入れて守るのだ。



ジャコウウシの群れ

世界最大の「カモシカ」

ジャコウウシに出逢う場所

-タクトヤクタック TUKTOYAKTUK-


イヌイットの町タクトヤクタック

巨大なピンゴ

 西部極北地方で最大のイヌイット生活圏であるこの街は、同時に彼らの昔からの文化が見れることを意味する。現在の人口は約950人で、この中の約88%がイヌイットの人々だ。  北極海へと繋がるボーフォート海にせり出した細い半島状の土地にこの街はあり、ノースウェスト準州を縦に流れるマッケンジー川が海に注ぐ場所で、樹木限界線から50キロ北に位置する。西欧人と接触のあるはるか昔から、ボーフォート海沿岸は広くイヌイットの人々の生活場所であった。 この場所が街としての基礎を築くのは、1931年に、そのせり出した地理的利点を生かした輸送キャンプが作られたことに始まる。数年後にはここに住み着いたいくつかの家族による始めての雑貨屋と交易所が開くこととなった。
 西部極北地方は石油の発見によってその歴史を大きく変えていくこととなったが、この街も例外ではない。1968年、アラスカで発見された石油とガスの調査の為に多くの人々がこの地域を訪れた。1970年になるとこの街から90キロしか離れていないアトキンソンポイントで石油が発見され、数百名単位の人のための住居や多くの機械とともにこの街は繁栄していく。
1980年代後半になると石油が掘り尽くされ、街から白人が去っていったが、もともと住んでいたイヌイットの人々はこの場所に残っている。
ポートフォート海に面した広大な土地には、様々な動植物が厳しい自然条件の中で暮らしている。永久凍土(ツンドラ)のこの場所には背の高い樹木は生えることができない。その代わりに目に映る緑は、低潅木類、コケ類、地衣類だ。夏の間はそれらを求めて移動してきたカリブーを見ることができる。又ムース、オオカミ、北極ギツネ、クズリ、ジャコウネズミなど極北を代表する動物たちも顔を出すこともある。そしてジャコウウシは街からは離れた場所に暮らす。彼らのテリトリーまで我々が出かけていくのだ。
一方、海には漁場を求めて移動するシロイルカが、群れを作り泳いでいくのが夏の間の恒例行事だ。
動植物とともに、この地域のもう一つの特徴的なものに『ピンゴ』が挙げられる。これは平坦な極北の大地に「ポコッ」と出っ張った小山である。枯れた湖が凍り始めると、その下にあるまだ凍っていない水分を含んだ台地までもが冷却され膨張し始める。その表面は長い年月をかけて凍り、又その下の大地が膨張し、ということを繰り返す。
下の湖の下部にある水分が全て凍って、完全な『ピンゴ』になるまで1000年かかるとも言われているこの氷の山は、極北の地のトレードマークとも言える。タクトヤクタック半島には1450もの『ピンゴ』があり、世界で一番の密集度を誇っている。中でもイビュックピンゴと呼ばれるものはカナダで最大、世界でも2番目の大きさで、高さ50m、幅300mのものだ。
※シーズン:4月下旬から5月下旬


-サマーセットアイランド Somerset Island-

ここは「北極圏」である


北緯73度15分に位置するサマーセット島には、1000年頃チューレと呼ばれる、イヌイットの祖先が住んでいた。彼らはホッキョクセミクジラなどを捕らえて生活していたと見られている。島では彼らが生活していた証拠となる鯨の骨、石の住居跡などが遺跡として残っている。
白人が初めて島に到達したのは、1848年でイギリスの探検家、ジェームズ・クラーク・ロスが島の北東端のレオパルド港に到着し犬ぞりを使ってサマーセット島を探検した。その後、1937年に島の南端にロス砦という交易所がハドソンベイカンパニーによって建てられたが、氷の状態からアクセスが悪く僅か11年で閉じられた。現在でも残った建物は近隣のイヌイットがカリブー狩をする際のシェルターとして利用されている。
※シーズン:7月下旬から8月


アークティックウォッチロッジ

サマーセット島では、夏の間、期間限定でロッジがオープンする。北極圏での休暇を楽しもうと世界中から人々がやってくる。極地にありながら、ホテルと遜色ないサービスを受けられるのが特徴だ。後述する動物観測の他に、ラフティング、ハイキング、マウンテンバイク、フィッシング、シーカヤック、ATV(4輪バギー)など豊富なアクティビティーが訪れる者を魅了している。 サマーセット島周辺では、下記の動物たちを観測することが可能。

ベルーガ
2000頭ものベルーガが7月中旬から8月初旬にカニンハム入り江にやってくる。彼らは、カニンハム川の浅瀬で体を擦り付け暖かい川の水を楽しむ。また、湾は若いベルーガたちが集まり。岸から数メートルのところまで近づくこともある。 ジャコウウシ サマーセット島の北部にある緑が見られる谷に定住している。

シロクマ
サマーセット島とレゾリュートベイの間の海氷上に多く生息している。